倉前麻須美 著
第8回 かぐや姫
尼ヶ辻での最初の頃はまだ体力がなく、いつも寝たり起きたりしていましたが、母がかぐや姫の綺麗な絵本を買ってきてくれたのがとても嬉しく、それからは板の間の部屋で毎日飽きもせず座って絵本を眺めていました。板の間は陽がよく差し込み、窓も開けていたので、とても明るくて気分がいいのです。それでも背中だけは階段横の板壁にぴったりとくっつけていました。しかし、この安心感によってお留守番ができるようになりました。時々は板壁に背中をくっつけたまま居眠りもしていたようですが。
そんなある日、居眠りから目が覚めると窓の外に知らないお婆さんが座っていました。普段着の地味な着物姿で、顔も体も痩せていてニコリともせず、話しかけても来ないでじっとこちらを見ているのです。父母から知らない人とは話してはいけないと言われていたので、私も無言です。何度か笑いかけてみましたが、そっぽ向かれてしまいます。何だか泣きたくなり、又居眠りしてしまいまい、次に目覚めた時にはもうお婆さんの姿はありませんでした。すると、ちょうど、生まれたばかりの弟をおぶった母が病院から帰ってきました。私はとたんに元気になり、それまでの出来事などケロッと忘れて母の元へと駆け寄って行きました。お姉さんになったからでしょうか、この頃から母に好き嫌いせず何でも食べなさいとうるさく言わるようになり、私は食べ終わるのが遅くて大変でした。
こんな毎日を過ごしながら、西大寺幼稚園に電車に乗って一人で通える位に成長しました。年長さんの時、父が職場の健康診断で胸に影があると言われて入院し、大手術になりました。その時の手術跡が肩甲骨の下に大きなムカデのように残っていて怖かったのを覚えています。父が入院している間、母の二人の弟、私にとっては叔父さんたちが泊まりに来てくれた記憶があります。後で知ったのですが、叔父さん二人は私の祖父の後妻さん、つまり義理の母親と反りが合わず家出して、私の母を頼って来たそうです。(つづく)
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