秘録 BC級戦犯裁判
第40回 ポートブレア編(19)
検察証言のおかしな点を挙げれば、ゴパルに対する暴行に関するサリムと弁護人の次のようなやりとりがある。
弁護人:あなたの供述書では、7月のある日、仕事へ行くために久保木の前で整列していると、ゴパルが病気だから仕事に行けないと訴えたが、久保木はそのゴパルに対して殴る蹴るの暴行に及び、それから仕事へ出て行ったと述べています。正しいですか?
サリム: 正しいです。
弁護人:彼が暴行を受け、それからあなたたちは仕事に出かけた。彼は畑で暴行を受けたのではないのですね。どうですか?
サリム:彼は畑で暴行を受けたのです。
法廷: では、供述書の第1段落は正しくないということですか。
サリム: 供述書は間違っています。今朝、私が証言したことが本当のことです。
(中略)
弁護人:あなたはアンダマンで聴取を受けときに、ゴパルが縛られていたことを述べましたか?
サリム:はい、述べました。
弁護人:そのことが供述書に書かれてないのはどういうことでしょうか。
サリム:供述書に何が書かれているか知りませんが、今、私が言っていることが真実です。
弁護人:そのときゴパルは何処にいましたか。
サリム:ゴパルは家の中で久保木に暴行されていました。
弁護人:ゴパルはその時もまだ縛られていましたか。
サリム:縛られていませんでした。
裁判長:証人は質問を理解しているのか。もう一度訊いてください。
サリム:彼は柱に縛られていました。
弁護人:ゴパルは柱に縛られたまま、被告から暴行を受けていたのですか。
サリム:はい
弁護人:あなたが見ている間に、ゴパルは意識を失いましたか。
サリム:彼は意識を失いました。
一方、検察証人アブバカーの反対尋問では。
弁護人:ゴパルは被告の家の中で倒れていたのですか。
アブバカー:彼は外、家の前で倒れていました。
弁護人:彼は縛られていましたか・
アブバカー: いいえ、縛られていませんでした。
ナジム・シークへの暴行の理由についても、サリムの証言は裁判前の供述と異なる。
弁護人: 誰がナジム・シークを暴行したのですか。また、なぜですか。
サリム:彼は被告に暴行されました。理由はある日、ナジム・シークが10分か20分遅刻してきたからです。彼は被告になぜ遅刻したかを訊かれてから、腕を上に伸ばすように言われ、被告がいつも持っていた棒で激しく打たれたのです。
サリムの供述書には「ナジム・シークは小久保に体が弱くて働けないと言った。すると小久保は彼を殴り倒し、意識がなくなるまで棒で殴り続けた」とある。
久保木氏は、ジャングルに行くときにいつも持ち歩いていた1メートルほどの籐の棒で、ミサル・アリの尻を二度打ったことは認めた。しかし、久保木氏が、ある日、ミサル・アリを見かけたので話しかけると、「Acha nai(調子がよくない)」との返事が返ってきた。手をアリの額に当ててみたところ、かなりの熱であった。マラリアかもしれないというと、アリは頻繁に便所へいくと言っていたという。この久保木氏の証言は、シャムシェル・アリの証言「ミサル・アリの便に多くの血が混じっていた」と一致する。アリは赤痢か消化器系の病気を患っていたと考えられる。
また、ゴパルについては、体罰として彼の左肩を拳で打った、と久保木氏は証言した。
久保木氏によると、ミサル・アリは死ぬ半月前、つまり7月後半は病気で床に伏していたし、ゴパルも2週間病気で寝ていて、5月の後半に死亡したという。ナジム・シークは6月の中旬にマラリアで死亡したが、その前の20日は病気で床に伏していおり、久保木氏は彼を見舞ってマラリアの薬であるキニンを渡していたという。
久保木氏の証言と検察証人の証言、どちらが信頼に足るものであるか。これ以上何も言う必要はあるまい。
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