いい加減な証言により死刑を言い渡された海軍軍属

秘録 BC級戦犯裁判

秘録 BC級戦犯裁判

第39回 ポートブレア編(18)

久保木登氏は海軍の軍属としてポートブレアで農業監督を務めていた。久保木氏も他の裁判と同様に、現地住民に対する虐待致死の罪に問われ、検察証人の証言だけで絞首刑を言い渡された。

検察の起訴内容は次のようなものである。

ポートブレアで農業監督をしていた久保木被告は、1945年6月から8月の間の3ヶ月の間で、4人の労務者に対して暴行に及んだという。ミサル・アリは勝手に木から果物を取ったことを理由に暴行され、ゴパルとナジム・シークは病気を理由に休みを願い出たことを理由に、そして、ルスタム・アリは無断で仕事を休み帰宅したことを理由に、それぞれ暴行されたのだという。いずれも棒で暴行された彼らは、その場で意識を失い死亡したという。

裁判で久保木氏は、果物を無断で取ったことを理由にミサル・アリを、また、出勤の状況の悪さからゴパルを、それぞれ軽く叩いたことは認めた。しかし、ナジム・シークとルスタン・アリを殴ったことは否認した。また、4人の労務者たちは皆マラリアで死亡したものであると主張した。

弁護人は、二人の検察証人の証言には間違いが多く、矛盾も含むため、信頼に値しないと主張したが、判事はその怪しい証言をそのまま証拠として採用し、絞首刑の判決を言い渡したのである。

サリムとアブバカーという二名の検察証人の証言は、そもそも現実的ではない。

これが死ぬまで暴行する理由かと首を傾げるものばかりなのである。ミサル・アリは果物を盗んだこと。ゴパルは2、3日休みが欲しいと頼んだが、拒否されたので仕事を拒否したこと。ナジム・シークは10から20分ほど遅刻して出勤したこと。ルスタム・アリは無断で帰宅したこと。こんなことで、農業を営むキリスト教の久保木氏が4人を死ぬまで殴るものか。半ば呆れながら弁護人はこう言い切った。

また、弁護人は嘆願書で次のようなことも述べている。

検察証人のサリムは弁護人の反対尋問の時に、当時現地でマラリアに罹っている者などいなかったと証言したが、アンダマンでマラリアのなかった所などあるものか、と。要するに、全ての死因を暴行致死にするために証人はマラリアなどなかったと言っているのである。

つづく

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