秘録 BC級戦犯裁判
第38回 ポートブレア編(17)
今回は合田豊海軍兵曹長の遺書をご紹介したい。以下『世紀の遺書』からの抜粋である。
遺言
母上、叔父上
今度戦争犯罪者として何の手柄もなく先立つ罪をお許し下さい。何等一点やましい事もなく処刑されて行くのであるから安心して往かれます。私は今、私の死は無駄にならない、といふ事を確信して居ります。(中略)母上、叔父上には今後体に気をつけられて末長く御幸福に生き永らへん事を御祈りして居ります。親類及御近所の方々に宜しくお伝へ願ひます。貯金通帳は亡失して居りますから新しく局へ請求してください。(中略)適当にお使ひ下さい。事件の詳細については寿賀天光、池尻の内山君と云ふ人が訪ねて呉れる筈ですからお聞き下さい。「親思ふ心にまさる親心…」
○子、○子殿
兄は明日死刑になるが悪い事をしたとは露程も思はない。公明正大な気持で潔く散つて行くが皇国の為に死ぬ覚悟は充分出来て居る。恐れも悔みもなく皇国再建のため捨てる生命に何の未練も執着もないが唯皇国の前途を見ずに死ぬのが心残りである。日本の前途は棘の道であるから生活に大革新をなし万世一系の皇統は天壌無窮であると云ふ事を忘れずに日本の再建に邁進せよ。どんな悲しみにもどんな不幸にも堪へ忍ぶ勇気と不動の信念とをもて。そして国を愛し親を敬ひ姉妹相扶け夫婦相和し真心を籠めて夫に仕へ子供を立派に教育し私心を捨て大愛に生き幸福に暮せよ。此の肉体は滅しても霊魂は不滅であるから兄は必ず祖国に帰り国及び合田家を守る。兄の霊魂は永遠に生きてゐることを忘れるな。
皇神のまことの道をかしこみて思ひつつ行く思ひつつ行く
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