秘録 BC級戦犯裁判 31

第31回 ポートブレア編(10)

今回は中野忠二海軍上等機関兵曹の遺書をご紹介したい。以下、『世紀の遺書』からの抜粋である。

遺書

父上、○○兄
 悪いことをしたわけではないのですが、敗戦の結果こんな事になつてしまいました。国の為家の為充分働き得ました事を嬉しく思つて居ります。
 今は安心と誇りを持つて堂々と日本の軍人らしく死んで参りますから嘆かないで下さい。父上、兄上、どうぞ何時までもお仕合せにお暮し下さいます様、心苦しく思ひますが妻子の事何卒宜しくお願ひします。

妻○○殿
 自分は今戦犯者の一人として死んで参りますが決して家門の恥となる様な事をしたのではないから、あくまで正々堂々と生き抜いて色々苦しい事もあらうが○○を育てて下さい。
 色々苦労をかけてしみじみ済まないと思つて居る。どうか何時迄も元気で暮して呉れる様祈つてゐる。貯金通帳番号は何時か葉書で知らしてあると思ひますがわかつたら郵便局に再発行を請求して生活の足しにでもして下さいます様。

○○殿
 死の直前に際して
 父は去り行くとも決して淋しく思ふな。又悪事で刑を処せられたのではない。父達の事が必ず世に現はれる時が来るから人々に恥づる事なく一生懸命勉強して成功して下さい。年老いた祖父に仕へ、病弱の母を助けて長く長く幸福に暮す様父は何時も傍に居て御守りします。父の死の事情も遠からず解る事でせう。多くの人達と一緒に天皇陛下万歳を三唱して去ります。では元気で御暮し下さい。

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