第43回 ポートブレア編(22)
今回は沢根初太郎氏と内村貞雄氏の遺書をご紹介したい。二人は昭和21年7月30日にシンガポールのチャンギーで刑場の露と消えた。
沢根初太郎
遺書
母上宛
三十余年間御養育下された御鴻恩有難うございました。何等御恩に報いることも出来ず今度敗戦と言ふ大きな運命の為戦争犯罪に問はれて処刑されることになりました。然し私は個人的な罪で刑を受くるのではありません。私は日本人として恥しくない立派な態度で死んで行く覚悟ですから御安心下さい。
今後何彼と御不自由勝ちでせうが御丈夫で御暮し下さる様蔭乍ら御祈り申上げます。留守中色々と御世話になりました。
親戚御一同様並に御近所の皆様に心より厚く御礼申上げます。宜しくお伝へ下さい。〇〇子のこと御願ひします。
〇〇子殿
長い間色々御世話になりました。苦労許りかけて申訳ありません。私亡きあとはどうか母親の御面倒をよろしく御願ひします。何もして上げられなかつた事が心残りです。辛いこと苦しいことが多いでせうが、我慢して朗らかに生活して下さる様蔭乍ら祈ります。
煩悩の絆を断ちてひたすらにわが魂は祖国守らむ
内村貞雄
遺書
永らく御無沙汰して居り突然御便り出来る事が出来て実にうれしく思つて居ります。近々に熊本県の藤田〇と云ふ人が行くと思ひます。アンダマン諸島で一緒に働いて居た人です。犯罪者として処刑されても自分を信じて下さい。貞雄
父上様
御一同様
遺詠
振りかへり恥ずることなし捨小舟水の流れにそひし身には
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