『情報とは何か 国際情勢を読み解く技術』
本書は、昭和五十八年に刊行された『悪の情報地政学』を改題しデジタル版として復刊したものだ。
なぜ、改題したのか。本書は地政学について書かれた本ではないからである。本書のテーマは飽くまで「情報」である。
倉前が国際情勢の分析において導き出した数多くのシナリオが後に的中したのは、何も「地政学」のみに頼って予測したのではなく、膨大な情報を長年にわたり蓄積し、それを倉前流に読み解いたからである。「地政学」はその技術の一端に過ぎない。
したがって、これから国際情勢を分析する仕事や研究に就きたいと考えている人には、まず本書をお薦めしたい。倉前が自身の情報分析の手法をわかりやすく解説したのが本書だからである。
私事で恐縮だが、小生のもともとの専門は国際関係論、特に国際安全保障で、英国で学んだ。しかし、評判の高い英国の大学でも本書に書かれているような情報学・情報技術は教えてくれなかった。多分、このような技術は人から教わるものでなく、自分で築きあげるものであろう。しかし、良き先達のノウハウを参考にすることはやはり必要なことだと思う。
およそ35年前に書かれた本だが、その中で語られる倉前の情報の読み解き方は全く色褪せていない。多くの方にぜひ本書を活用していただきたい。
最後に、35年前に国際政治学者の中嶋嶺雄氏、国際エコノミストの長谷川慶太郎氏がそれぞれ本書に対しておくってくださったお言葉をご紹介したい。
倉前盛通さんのこと
中嶋嶺雄
現代は情報化時代といわれるが、たんに情報量の多寡が決め手になるのではない。 小さくてもキラリと光る情報を探し出して、状況を長期的、全体的に展望するためのシナリオ、 つまり〈戦略〉が組み立てられなければダメだ。
『悪の論理』で一世を風靡した倉前さんは、多年の情報分析の経験から、本書では情報学のノウハウのみならず、筋書きの読み方を、一つの文明論として語っている。
だが、倉前さんの鋭い直感力も、地道な蓄積に支えられていることを私は知っている。たとえば倉前さんが十年以上前に書いた『ソ連領北東アジア−その自然と交通経済』という本は、大変地味な著作だが、今日のシベリア開発や中ソ接近の将来を展望するうえで欠かせない労作である。
倉前「地政学」 がデマゴキーではなく、すぐれた文明論たり得る秘密はこの辺にあると私は思う。
そして倉前「情報学」ともいえる本書は、二十一世紀を展望するための実践的な手引き書だといってよい。
「予想外の事件」が襲ってくる国際社会を理解する上で貴重な本だ!
長谷川慶太郎
いまの世界には情報が氾濫している。毎日、真偽とりまぜ大量の情報が流れているなかで、次から次へ「予想外の事件」が襲ってくる。一体どうすれば、この 「情報禍」時代を生き抜けられるのか。国際問題についての権威である著者が、ここに長年にわたって蓄積してきたノウハウを公開した。同業の立場から言うなら、著者の透徹した観察力、組織的な情報収集力、分析力に改めて敬意を表する他はない。
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