『悪の論理 完全版』
『悪の論理 完全版 地政学で生き抜く世界』は、『悪の論理』と『新 悪の論理 増補版』の2冊を1冊にまとめたものだ。前著2冊を既にお読みいただいた方には目新しいものではないかもしれないが、この度、初めて『新 悪の論理』増補分「ゴルバチョフの時代」を電子書籍化し収録したので、これも是非お読みいただきたい。
もちろん、現在のロシアはソ連ではなく、プーチンのロシアと呼べるような国家である。ゴルバチョフは過去の人であり、歴史上の人物と言ってもよいかもしれない。しかしながら、「ゴルバチョフの時代」という増補された一章が全く意味がないかといえば、そうではない。
「ゴルバチョフの時代」を読んでいて思ったことは、倉前は「プーチン・ロシア」の到来を予感していたのではないか、ということだ。もちろん、倉前は「ソ連」という国家を前提として本章を書いているし、「プーチン」という個人など知る由もなかった。しかし、倉前が指摘したことは、「インテリ」、「スマート」の面を持つKGBの若手たちが権力を掌握し、強権政治を行い始めるのではないか、そうしないと、硬直しきったソ連の国家機構は改革できないのではないか、ということであった。ゴルバチョフがKGB人脈に繋がっていたことはあまり知られていない。
ゴルバチョフは思い切った改革を断行したが、それにソ連という国家は耐えきれず、瓦解してしまった。その時点でゴルバチョフの政治生命は尽きて、エリツィンの時代となった。ここで倉前の指摘は外れたかのように見えるが、実はそうではなかった。
エリツィンから権力を半ば簒奪したのは元KGBのエージェントであり、当時FSB(KGBの後継組織)を掌中におさめたプーチン首相であった。つまり、KGB人脈が権力を掌握したのである。大統領就任当初、プーチンは西側とうまくやっていくものと思われていたが、既にその時チェチェン紛争での強権発動ぶりは西側から批難されていた。その後の強権政治はいうまでもないだろう。
つまり、ゴルバチョフ時代にKGBの若手たちが権力を掌握する準備を進め、ソ連崩壊を挟んだが、見事、プーチンを押したてて権力の座についたのである。これを念頭に「ゴルバチョフの時代」を読んでいただければ、それなりに楽しめるのではないか。
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