生誕百年記念連載『父と私 倉前盛通伝』22

近江国 父と私 倉前盛通伝
近江国

倉前麻須美 著 

第22回 忘れられない誕生日ケーキ

富雄の家も、あやめ池の家と同じく陽当たりが良い家でした。家は坂の上にあり、そこに一番乗りしたかのようで、坂の下の広い造成地にはまだ家が建っていませんでした。庭先にたくさんのコスモスと葉鶏頭が咲き、気持ち良い風にそよいでいる風景が今でも頭の中に染みついています。

そんな家には、駅から遠いのにもかかわらず、いろいろな人が遊びにきてくれました。下の叔父さん、大阪のおじさん宅のお姉さん、父母の知り合いなど挙げたら切りがありません。なかでも忘れられないのは、私が京都で入院していた時の相部屋のお姉さんの友人だというお兄さんです。私の誕生日に、「色黒だからケーキも真っ黒だよ」と言って誕生日ケーキをプレゼントしてくれました。嬉しそうな表情を浮かべた父母に開けてごらんと言われ箱を開けたら、本当に黒いケーキでした。

私の苦手なバタークリームの飾りではなく、砂糖で出来たお花の飾りがとても可愛らしかったです。蝋燭の火を吹き消し、ケーキを切り分けてみんなで食べました。食べてみて初めてわかったのですが、それはチョコレートでコーティングされたケーキだったのです。とてもおいしく、今でも忘れらない味です。昔苦手だったバタークリームも、今ではずいぶん口当たりの良い、おいしいものになりました。

入院している時にそのお兄さんにかまってもらった記憶はあまりないのですが、富雄時代にいろいろと親切にしてもらった思い出は忘れません。お兄さんの家に泊まりに行った時などは、うなぎの寝床と呼ばれるくらい奥行きのある、大きなしっかりした造りの家が子供の私には驚きでした。歩いて行けるところに琵琶湖があり、ポチャポチャと水遊びした時シジミが見えてびっくりした記憶もあります。怖がりなので沖まで行く勇気はなかったです。

そのお兄さんは、私たち一家が大阪の池田市に引っ越した時も来てくれました。今思うと遠くからよく来てくれたなあと思います。(つづく)

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