倉前麻須美 著
第18回 水餃子の思い出
あやめ池に戻ると、お腹の大きくなった母のお手伝いで駅近くの商店街まで買い物をすることが多くなりました。そんな中、出産間近になった母が入院する個人経営の産婦人科医院に、私達父子も泊まり込むことになりました。ここで毎朝父が作ってくれる目玉焼が醤油味で、私は「しょっぱいからいや」と言ってごはんと黄身しか食べませんでした。うれしかったのは、ここの病院から小学校まで電車に乗らずに歩いて行けたことです。近くていいなあと思いました。
弟が無事に生まれ一週間が経ち、みんなで退院する日の前日、お医者さんの奥さんがとてもいい人で、「皆に食べてもらう夕食作りのお手伝いをしてね」と言いました。大喜びで、私はお手伝いをしました。メニューは粉から作った水餃子です。粉を練り、小さく丸めたのを短い棒で平らに伸ばす皮づくりの作業を何度も繰り返しました。そうして出来上がった料理をお鍋に入れて、奥さんが持ってきてくれました。父母と一緒に食べた温かいスープ餃子の味はとても美味しく、それが私が食べた初めての餃子でもあり、今でも忘れることができません。(つづく)
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