生誕百年記念連載『父と私 倉前盛通伝』6

西大寺 父と私 倉前盛通伝

倉前麻須美 著 

第6回 健康体に

光の帯は、また、納戸の唐紙の隙間から真っすぐ私の方に来ました。そして、また同じ様に、私の真上でピタッと止まりました。私は、今度は初めから足を出したらその光の帯を取れると思っていたのですが、なんて単純なんでしょう。あちらは、そんなことはお見通しで、足の届かない高さになっていました。そして、ずっとそこから動かないのです。背中に弱みを持つ私に立ってみろと言わんばかりです。さすがに降参です。

じっと眺めていると細長い体がかすかに波打っていました。今は蛍光灯に豆電球があり、部屋の中が真っ暗闇になることはありませんが、昔の裸電球の時代では消灯したら真っ暗でした。だから銀白色の色がとても綺麗だと思ったのです。今思うと、何か発光体だったのでしょうか。

真上からずっと見下ろされているのも気になるので布団を被っていたら、いつのまにか眠ってしまいました。それ以降は夜中に目を覚ますこともなく、お目にかかりませんでした。それからというもの私は元気になり、父母と共に薬師寺や唐招提寺へ散歩に出かけたり、西大寺幼稚園まで電車通園したりしていました。この頃、世間ではミルク飲み人形が大ブームでした。しかし、高価なものでしたから、もちろん我が家にはありませんでした。不憫に思った母は等身大のお人形を作ってくれました。数少ない母との思い出です。

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