生誕百年記念連載『父と私 倉前盛通伝』10

西大寺の門 父と私 倉前盛通伝
西大寺の門

倉前麻須美 著 

第10回 叔父さんと弟

大手術をした父が退院する日、私はとても嬉しい気持ちでお迎えに行きました。病院に着くと、入り口にたくさんの人がいてとてもにぎやかなので、何かあるのかなと不思議に思っていました。父と母は忙しそうに、けれどにこやかにいろいろな人に挨拶していて、何があるのか聞きそびれてしまいました。そして、迎えのタクシーに乗り込んだ時、ようやくその理由がわかり、びっくりしました。皆で手を振って父を見送るためだったのです。父も笑顔で手を振っていました。嬉しそうな父を見て、子供心に私まで嬉しくなったのを覚えています。

尼ヶ辻に戻り養生している間、父は下の叔父さんの気が済むまで話し相手になっていたようです。私が西大寺幼稚園に年長さんとして通っていた頃のことになります。叔父さんはこの頃に、大阪の鉄工所で働く決心をしたのでしょう。顔が大人っぽくなっていったのを覚えています。

後年、父が笑い話として語ってくれた後日談があります。叔父さんは初めてのお給料で落花生を一俵買って、尼ヶ辻の家に遊びに来ました。しかし、それは一人で思い切り食べるためだったらしいのです。そうして一人で全部食べ切ったまではいいのですがが、その後、猛烈な腹痛で何度もトイレに駆け込んで大変だったそうです。父はその時のことを思い出して大笑いしていましたが、よく立ち直ってくれたよと何度も言っていました。

自宅で養生していた父が仕事に復帰し、私も幼稚園に行く生活が始まりました。幼稚園から帰宅すると母のお手伝いで、体の弱い弟(その頃、坊やと呼んでいました)の面倒を見ながらお留守番をすることが多くなりました。おとなしく寝ていることが多かったので歩くのも遅く、私たちは心配していましたが、下の叔父さんが大阪に働きに出るまでの間、いろいろ遊び相手になってくれたのもよかったのでしょう、坊やはだんだんと歩けるようになっていきました。(つづく)

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