生誕百年記念連載『父と私 倉前盛通伝』3

西大寺 父と私 倉前盛通伝

倉前麻須美 著 

第3回 尼ヶ辻へ

尼ヶ辻では来客が多かったようです。なかでも、父が尊敬する大先生でいらっしゃいます影山正治先生と保田與重郎先生のお二方に、赤ん坊の私を抱っこして頂けたのがとても嬉しかったようで、これもまた何度聞かされたことでしょう。影山先生の大東塾とは、先生がお亡くなりになった後も親しくさせていただき、父が亡くなった時には慰霊祭を執り行ってくださいました。また、父の遺品の中には保田先生からの葉書も大切に保管されており、父の保田先生への思いが窺い知れます。

尼ヶ辻の前にどこで何をしていたのか、両親はあまり語ろうとはしませんでした。そこには、私が1歳を過ぎるくらいまでいたようですが、当然、私には記憶がありません。よちよち歩きの私は転んで火鉢に顔を突っ込んでしまい、大火傷を負ったと聞いています。両親が私を担ぎ込んだ病院のお医者様は、全身の三分の一以上の大火傷の上に浮腫みも出ていることから、首を横に振ったそうです。両親は、私が肺炎と大火傷で二度も死にかけたその土地から心機一転、尼ヶ辻へ移り住んだのでございます。(つづく)

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