倉前麻須美 著
第4回 光の夢
二度も死にかけたことなど何も知らない私の記憶は、尼ヶ辻から始まります。昭和25年から26年の頃になるでしょうか。そこでみた忘れられない夢から、私の人生の記憶は始まる言ってもよいでしょう。その頃の私はいつも怖い夢を見てはうなされれていたのです。そのためか、いつもうつらうつら眠り込んでいたようです。怖い夢といっても最初はとても素敵な光景から始まります。夜空にたくさんの星がキラリキラリと光る中、私はふわりふわりと浮かんでゆっくり動いているのです。この場面まではとてもご機嫌で気持ちがよいのですが、ふと左上を見上げると、そこにはギンギラギンに光ったとてつもなく巨大なものが猛スピードでこちらに近づいてくるのです。気づいた時にはもうすでに大きな穴に吸い込まれ、呼吸も出来きず、そこではっと目が覚める。決まって、口の中はカラカラで苦味をおびていました。いつもこの夢の繰り返し、全く同じ内容なのです。幼心にまたあの夢を見なくちゃならないのかと、切なかったことをよく覚えています。(つづく)
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