倉前麻須美 著
第12回 あやめ池の新居
歩けるようになった弟はじっとしておられず、お留守番していても外へ行きたがって、階段に出る戸を開けようとします。それを止める私も大変でした。今度の引っ越しには、そういう事情もあったのでしょう。出来上がった家はあやめ池というところにありました。その頃のあやめ池はまだ開発される前で、野兎がこっちを見て逃げたりと自然に囲まれているのどかなところでした。家は駅から遠かったのですが、私はあやめ池駅から奈良駅まで電車に乗って、奈良女子大附属小学校に通っていました。昭和31年の頃から33年までのことです。
小学校では、全学年で若草山登りをした記憶があります。その山登りの行事が毎日続き、それが今日で終わりという日、あずきの入ったお汁粉が出され、皆で食べました。毎日給食は食べていましたが、甘いものが出たことにとても驚いたのを覚えています。
新しい家の周囲には、白くペンキを塗った柵がめぐらされ、母の大好きなつる薔薇が三箇所に植えられました。一所懸命、庭造りに励んでいた父の姿が思い出されます。(つづく)
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