『「悪の論理」の現代史』14

悪の論理 完全版 「悪の論理」の現代史
悪の論理 完全版

陰謀と悪の論理

まずは『悪の論理』からの抜粋を、少々長くなるが、お読みいただこう。

第二次大戦が終わったあと、東京の市ヶ谷でひらかれた戦犯裁判において日本の弁護側は、この無線傍受の件を提出して、日華事変の発端が日中を争わせようとした第三者の謀略であった旨主張したが、連合国側の裁判官は、これを却下した。
 連合国側に都合の悪い資料は、すべて却下し去ることによって、一方的に日本を悪者に仕立てあげて行った連合国主催の極東軍事裁判は、まさに前代未聞の茶番劇であったといえる。
 ゾルゲ事件も、日本側から反証の一つとして提出されたが、極東軍事法廷の「連合国の一国(ソ連のこと)を侮辱するもの」という言い分で却下されてしまった。
 戦勝国が敗戦国の指導者を裁判にかけて、あたかも正義の判決のような仮面のもとに、敗戦国のリーダーを殺害するという非近代的な中世的なやり方を復活させたのも、米ソ両国であるが、これも地政学のテーゼのひとつ「大衆心理戦略」なのである。一体、誰が、このような心理戦略を考え出し実施にうつしたのか、今後の重要な研究課題のひとつである。
 「敗戦国人民の怨を、敗戦国のリーダーに向けるように仕向け、これが戦勝国の手で処刑されることによって敗戦国の一般大衆に自分たちの責任はのがれたかのように錯覚させよ。そうすれば、敗戦国人民は、敗戦の真の原因を追求し、研究することを怠るであろう」
 「敗戦国人民が敗戦の真の原因の探求を怠るようになれば、今度の戦争の仕掛人が実は戦勝国の連合国側であった事実を悟らないであろう。そうすれば、戦勝国は安心して、敗戦国に対する外科手術(生体実験)をすることができるし、何も知らぬ敗戦国人民からは感謝されることになろう」
 「敗戦国のリーダーを殺害することによって、戦勝国人民の報復心理を滴足させよ。しかも、その殺害をあたかも合法的な裁判による正当な判決であったかのように擬装せよ」
 「第二次大戦前の世界には『戦犯法廷』というような法的概念も国際法も存在しておらず、戦争の末期になってから急遽つくられたものであることなど誰も大衆は気がつかないであろう」
 「法律は、成立した後に発生した事件を処理するものであって、成立以前の問題を処理することは出来ない(法の不遡及の原則)。たえば、禁煙法が成立したとしても、法律制定以前にまで追及の手がのびるとすれば、過去の喫煙者はすべて処罰の対象となる。このようなことは法律上の常職として、あり得ない。同じように戦争犯罪という法規のなかった過去の出来事を、あとからデッチあげた裁判所条例(チャーター)によって裁くことは明らかに不法であるが、大衆はこのような法律上の常識は持たないから、マスコミを動員して、大々的に戦争犯罪記事を書き立てるならば、大衆はそちらの方へ気をとられ、戦争裁判が儀式化された復讐、リンチにすぎないことには気がつかないであろう」
 「裁判の茶番性を指摘するような敗戦国の人間がいたら追放令によって社会から葬れ。戦勝国の人間がそのような主張をした場合は、マスコミ界と学界の圧力で無力化させよ」
 「戦勝国がおこなったいかなる非人道行為、たとえば原爆による非戦闘員虐殺のような事例は、検閲によって、一切言論機関に取りあげさせてはならない」
 おそらく、地政学の大テーゼに劣らぬ「心理戦略テーゼ」が、米国あたりの誰かの手によって確立したと思われる。まさに、マキャベリズムそのものである。キッシンジャー前国務長官など、この心理戦略学の大家であると筆者は見なしている。
 地政学のテーゼのほかに、このような心理戦略学も、自ら学び、自ら悟る必要があろう。密教が公開されることはないのであるから・・・。(倉前盛通『悪の論理』より抜粋)

倉前が『悪の論理』を上梓したのは昭和52年(1977年)である。今から40年以上前となれば、マスコミや学会の力は絶大であったはずである。インターネットの出現により情報を直接入手できる現在では、その力も相当衰えはいるが、それでもやはり相当の影響力を持っており、ここで倉前が述べているようなことを発言すれば、未だに陰謀論者扱いされかねない。ましてや40年前となれば、どんな扱いをされたか容易に想像できるであろう。

この「心理戦略テーゼ」という悪の論理は、決して陰謀論などではなく、実際に実行された戦略テーゼである。それは最近の多くの研究成果を見れば明らかである。それはこれ以上ここで述べる必要はあるまい。

さて、このような「心理戦略テーゼ」が存在することを知っていれば、今回の米大統領選挙をめぐるメディアがまさにこれに沿って動いていることに気づくであろう。アメリカの一部のメディアや選挙関係者たちの直接の発信がなければ、誰もがメディアの言うことを真実だと信じ込んでいただろう。そして、報道に異を唱える者たちは単なる陰謀論者で片付けられたであろう。

戦後の数十年間、左翼全盛の全体主義的な言語空間の中で苦しんだきた日本の真の保守派は、今回の米大統領選挙でまた同じような匂いを嗅ぎ取ったであろう。そして、それへの反応を見れば、その人の人間性とその背後が透けて見えてくる。実におもしろいことではないか。

この抜粋の中で倉前が名前を出していたキッシンジャーは、つい最近、米国防総省の防衛政策評議会の任を解かれた。この人物も相当の「悪党」である。さて、キッシンジャーが次なる一手をどう繰り出すのか、興味は尽きない。

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