Brexitと地政学

ご無沙汰しております。倉前九平次です。
本日からまたブログを再開致します。

さて、今英国はEU離脱(Brexit ブレグジット)で揉めに揉めているようだ。地政学的に見れば離脱しか英国の生き延びる道はないと思うのだが果たして・・・。

英国といえば、チャーチルという政治家がやはり思い出される。倉前盛通は、チャーチルを悪の論理を心得ている人物という意味で大悪人と評した。そのチャーチルがどんな手段を使ってでも倒さなければならなかったのがドイツであった。

第二次大戦のみならず、第一次大戦も敵はドイツであった。20世紀初頭から著しく台頭してきたドイツを抑え込むために、英国が費やしてきたものは想像を絶するほどである。その目的のためにはかつての敵のロシアやフランスとも手を組んだ。フランスはナポレオン時代に陸軍国としてヨーロッパの覇権を握り、対抗する海軍国の英国としのぎを削った。ロシアは、19世紀にユーラシア大陸の覇権を握るべく中央アジアで英国と激しく争い、これは「グレートゲーム」と呼ばれた。

このようなかつての敵とも手を結んで、ようやくドイツを打ちのめし、NATOというドイツに被せる蓋まで作ったまではよかったが、それ以降は経済力で英国はドイツの後塵を拝し、EU結成後は完全にヨーロッパの主導権をドイツに握られてしまった。これが現実である。

こうなった時に英国がどのような手に打って出るか、それほど難しい問題ではない。

もともと英国の外交には三本の柱があると言われてきた。対米関係、英連邦との繋がり、そして欧州大陸への関与である。英国は常にこの三本の柱の間でバランスを取ってきたといってもよい。そこで、最近の欧州はドイツの影響力が強すぎると感じた場合、英国の頼る柱はアメリカと英連邦になると考えるのが自然である。

アメリカと英国の関係は冷戦終結後から現在まで、多少の上下はあれど、常に良好に保たれてきた。やはり、アングロサクソン連合が外交の基軸である。そして、これから注目したいのが、英連邦諸国との関係である。英連邦とは、要するに、親英の旧植民地のことであり、それはアフリカ、インド洋、そして太平洋をカバーする。本来の海洋通商国家・英国の姿はむしろこちらにある。

英国が、欧州の狭い大陸よりは自由な海洋に再び活路を見出すことは当然といえば当然である。ここで俄かに注目され始めたのが英国のTPP11への加盟である。実はこれにはカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールという英連邦の中でもとりわけ英国との関係が深い国々が加盟しており、英国としても気心が知れている。日本もこれには前向きな姿勢を示している。

シリア情勢を契機に再び台頭しつつあるロシア、一帯一路の推進に躍起になる中国、EUを利用し欧州大陸を握りつつあるドイツ。混迷を極める中東。このような大陸に海洋国家・英国が取り込まれても何のメリットもなかろう。

国際秩序はおよそ60年から70年の周期で移り変わるといわれる。戦後70年が過ぎ、今まさに戦後国際秩序は崩れ去ろうとしている。英国のEU離脱はこの地政学的文脈で語るほうがわかり易いと思うのだが。さて、結果はどう出るか。

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