黒海の地政学

英駆逐艦ディフェンダー 国際ニュース
英駆逐艦ディフェンダー

今月23日、地政学を知るものにとっては大変興味深いニュースが流れた。ロシア海軍の艦船が、黒海を航行中の英海軍駆逐艦ディフェンダーに対して威嚇射撃を行い、さらにロシアの戦闘爆撃機スホーイ24がディフェンダーの進路に4つの爆弾を投下したというのだ。これはロシア国防省が発表したもので、欧米では大きく伝えられた。しかし、英国政府はこのロシアの発表を否定し、駆逐艦ディフェンダーに向けられた威嚇はなかったと発表した。

ロシアの言い分では、英海軍駆逐艦がロシア水域に侵入しクリミア半島に接近していたということになるが、英国の言い分は、その駆逐艦がいたのはウクライナの水域であり、したがって威嚇も受けていないというものだ。どちらが本当に正しいのかは、当事者以外知る由もないない。

しかし、ロシアにとって黒海がどのような存在であるかは、再認識させられたと言ってよい。地政学的に、黒海はロシアにとって極めて重要な海ということである。数年前、クリミアをウクライナから奪い、これを併合したのも、黒海を押さえるにはクリミア半島が不可欠だからだ。そのクリミア半島に英海軍の駆逐艦、しかも、あの空母打撃群の一員でもある艦船が接近したらロシアがどの様な反応を示すか、これは誰にも明らかなのである。それを分かっていて英国はディフェンダーをクリミアに接近させた。しかも、この駆逐艦は高度な防空システムを有する。今回のロシア軍の反応や能力は全部お見通しだったろう。全ては計算されていたのかもしれない。

実は、この話はこれで終わらない。27日にBBCが報じたところによると、この駆逐艦ディフェンダーのクリミア近海航行に関する機密文書が、英国ケント州のバス停で発見されたというのだ。これは実に奇妙な話だ。英国当局によると、文書を管理していた者が紛失したらしいのだが、おかしなことに文書の発見者がBBCに通報したというのだ。それでBBCがこの文書を入手できたわけなのだが、これはリークであろうと推測される。この文書には、ウクライナ領海を駆逐艦ディフェンダーが無害通航すればロシアは攻撃的な反応を示すだろうとの予測が記されていたという。

しかし、これは単なるリークであろうか。確かに英国の役人が、国民にとって重要な機密を正義感に駆られリークすることはあるにはある。しかし、今回の文書はそこまで重要かと言われれば、それほどでもない。となると、これは単なる憶測で何の根拠もないのだが、英国の態度に怒ったロシアが張り巡らせたスパイ網を使ってリークさせ、英国の面目を潰したたとみることも可能だろう。ロシアと英国のこれまでスパイ合戦を見ればこれくらいは普通にあり得る話である。その真相は闇の中ではあるが。

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