グルー駐日米大使が3月2日にハル国務長官に送った、クライブ駐日英大使との会談の報告は、次のようなものだった。
ロンドンからの指示によりクライブは前週に廣田外相を訪ね、英国は日中関係の発展を喜んで歓迎すると述べた。廣田はこの英国の確かな励ましの発言を歓迎し、日本側としては、中国が今の困難な現状から脱するのを支援する建設的な方策において、関係国、特に英国と米国の協力を歓迎すると述べたという。
また、廣田は、どのような形であれ日本からの借款に否はないが、どのようなものであっても、借款が中国の財政問題を解決するとは思えないと付け加えたという。また、廣田がクライブに、日中関係改善のために日本が意図し努力していることを熱心に語ったが、それはその同日か前日に廣田がグルー自身に語ったものと同じ内容だったようだ。
実はこの1週間前、中国に駐在するカドガン英公使は本国から、南京政府が国際財政支援計画にどのような態度を示しているか、借款団という言葉を用いずに探るよう指示を受けたという。これはクライブがグルーに語ったところである。
そして、興味深いことをクライブはグルーに語った。グルーは次のように報告を終えている。
Clive feels that the success of any financial plan will depend upon possibility of persuading T.V. Soong to modify his intense anti-Japanese attitude and upon his reinstatement as Minister of Finance.
いかなる財政支援計画の成功も、宋子文に彼の激しい反日的態度を緩和するよう説得できるか否か、そして、彼の財政部長への復帰にかかってくるだろうと、クライブは感じている。
これより以前、宋子文は南京政府の財政部長を辞して、中国経済界に入り絶大な影響力を持つようになっていた。このような人物が、英国人から見ても「激しい反日的態度」を持っていたということは、それが日中関係改善の足枷になることは明白で、クライブはそれを危惧していた。しかし、宋子文抜きに中国経済界は動かないことも事実であった。
この宋子文という人物、あの宋三姉妹の実の兄弟である。つまり、孫文、蔣介石、孔祥熙とは義理の兄弟となる。この一族が中国の権力と富の中心にいて、そこに米国を引き込んでいったわけだ。日本と国民政府の関係が改善されて一番困るのはこの一族であったろう。
英国はこの後も日本との協力を模索して、リース・ロス使節団を日本に送ってきたりするのだが・・・。
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