親中の英経済界

日英関係

蒋介石が貿易協定を提案してきたことは先に述べた。それと同じ時期に、英経済界からも英政府に要請があった。その内容は、もっと中国と商売をできるようにして欲しい、ということであった。確証はないのだが、この二つの動きは連動しているのではないだろうか。もし、蒋介石の立場であったならば誰もが、英経済界にも手を回して英政府に圧力をかけようと考えるだろう。

1939年11月29日付のマンチェスター商業会議所からカドガン英外務次官へ宛てた書簡で、次のように述べられている。

At the present time several of our constituent members with trading interests in China, are feeling a growing anxiety as to the future prospects in that market. It would appear from reports in the Press and elsewhere, for instance those concerning the reduction of the military and naval personnel, that some important changes in British policy may be imminent. It is suggested in some quarters that the British Government is seriously considering some arrangement which will affect our position vis-a-vis Japan in the Far East. In commercial circle it is felt that such a move would be in no way conducive to improved trading conditions with the China market.

現在、対中貿易に利益を持つ会員の何人かが、中国市場の先行きに関してますますの懸念を抱いています。新聞その他から、英国政府の方針に近々重大な変更があるようだと伝わってきています。例えば、極東の陸海軍の人員を削減するということです。ある筋によると、英政府は日本との何らかの取り決めを真剣に検討しているというではありませんか。それは極東でのわれわれの立場を左右するものです。商業界が感じていることは、そのような動きは、中国市場での貿易状況を改善するのに全く助けにならないだろうということです。

第一次世界大戦がヨーロッパで勃発してから、英国は極東に置いている陸海軍の人員をヨーロッパに回そうとしていたのである。それには、悪化してしまった日英関係を多少は改善しておく必要があったろう。実際、日英の関係改善の動きは水面下では常に模索されていたことではある。しかし、それは中国にとって面白いことではない。蒋介石が、英国貿易商たちに、おたくの政府が日本と関係を改善するならばもう商売しませんよ、と言ってきたとしても何ら不思議なことではない。

この経済界の動きに、英外務省はどのように回答したのであろうか。英国政府の方針に変更はない、というのがその答えであった。その方針の基本的な部分を、ハリファクス外相の議会での声明を引いて説明している。

In his statement in the House of Lords on the 3rd August, Viscount Halifax indicated that His Majesty’s Government’s policy was to try to improve relations with Japan, without at the same time impairing their relations with China or going back upon their treaty obligations.

8月3日の貴族院でのハリファクス外相の声明が示すように、英国政府の方針は、中国との関係を損なうことなく、もしくは英国政府の条約義務に反することなく、日本との関係改善に努めることである。

これを口で言うのは簡単であるが、実際に行うことはそれほど簡単ではない。中国と日本は実際に戦っているのである。そして、そこにもう一人、重要なプレーヤーが関わってくる。上の抜粋は次のように続く。

At the same time, His Majesty’s Government have every intention of keeping closely in line with the policy of the Government of the United States in the Far East.

同時に、英国政府は極東における米国政府の方針に沿って行動する固く決めている。

つまり、もう英国独自の方針など関係なく、米国の方針次第ということになる。西部戦線で苦境に立たされている英国には、米国の助けがどうしても必要なのだ。この時点で英国に選択の余地などない。米国は蒋介石を支援する立場にあるのだから、英国には彼らの機嫌を損ねることなどできるはずもなかった。日英の関係改善など所詮は口先だけのお題目で、それに付き合わされた日英の関係者はお気の毒であった。

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