蒋介石、英国に経済協定を提案

英中戦時貿易協定の提案 日英関係
英中戦時貿易協定の提案

ヨーロッパの西部戦線に、軍事使節や中国人労働者の派遣を計画した蒋介石であるが、英国懐柔策はそれだけに留まらなかった。次に蒋介石は、経済協定の締結を申し出てきたのであった。これに関与したのが、当時ロンドンの中国大使館に滞在していた郭秉文氏(Kuo Ping-Wen)である。郭氏は米国で教育を受け、その後著名な教育学者になった人物である。この郭氏が英輸出信用保証局のサマービル=スミス氏に電話で話した内容が1939年11月14日付の公文書として残っている。サマービル=スミス氏が戦争経済省のチャールズ・スターリング氏宛に、中国の申し出を伝える書簡を送ったからである。それは次の通りである。

I do not know who delves in Chinoiserie at M.E.W. and I therefore address this letter in the first place to you.
P.W. Kuo called yesterday and after a long talk about supply difficulties, said that he had noticed in the press that H.M.G. was concluding a series of war Trade Agreements with different neutral Governments. He wondered whether it would not be mutually beneficial to negotiate an Agreement of this type between our respective Governments. The SIno-German Trade Agreement was terminated and China had in consequence large supplies of raw materials available which might be useful to us in the prosecution of the war. In return for materials of this nature we might consent to be a little more generous in our supplies of special steel and other essential materials to China.
I do not know whether this is P.W.’s own little idea, but I promised to pass it on.

私は戦争経済省で誰が中国に関する調査を行なっているか知らないので、まず貴殿にこれを送ろうと思います。
 昨日、郭秉文氏が電話をしてきて、物資供給が難しくなっていることについて長いこと話しました。その後、郭氏は述べました。英国政府はいくつかの中立国政府と戦時貿易協定を結ぼうとしていると新聞紙上で知ったが、英国と中国がこのような協定を結ぶため交渉することはお互いの利益に叶うのではないか、と。中国とドイツの貿易協定が終了したので、その結果、中国には多量の利用可能な原材料があります。それらはわれわれ英国の戦争遂行に役に立つでしょう。その代わりにわれわれはもう少し惜しみなく、われわれの特殊鉄鋼や、その他不可欠な物資を中国に送ることに同意することにはなるでしょう。
 私はこれが郭氏自身の考えなのか知らないが、これを伝えると約束したのです。

郭氏は中国大使館に滞在していたのであるから、おそらこれが中国政府の意向であることに間違いはなかろう。それ無しに、このような話を英国政府の人間とすることは考えられない。

この中国側の提案で興味深い所は、ドイツとの協定が終わって物資が大量に余っているので欲しくありませんか、と言っている点だ。逆を言えば、もしあなたが買わなければ誰が買っても知りませんよ、とも聞こえる。英国にしてみたら、それが再びドイツであったら最悪の事態だ。しかも、英国は物資不足で苦しんでいる。蒋介石もうまい所をついてきた。その代わり、中国が欲しいものをもっと送って欲しいと取引まで持ちかけている。これは、暗にもっと武器を送れと言っているに等しい。

蒋介石は、英国の西部戦線での苦境を利用して、自分たちに少しでも有利な状況を作り出そうと色々な手を繰り出していたわけだ。この時点でも日本の外交当局は、日英関係改善に真面目に取り組んではいたのである。ただ、日本と関係を改善したところで、ドイツと手を結んだ日本が英国にしてくれることはほとんどない、と英国が考えるのも理に敵っている。日本がドイツなどと手を組んだ時点で、この流れは決していたのだ。

少し言い方は悪いが、日本はドイツという「ババ」を中国から引かされたのである。「ババ」に大喜びした軍人も外交官も愚かであった。

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