倉前盛通の『悪の論理』の中でよく目にする言葉がある。「食糧とエネルギーと情報を制するものは世界を制す」という言葉である。事実、米国は世界戦略の中でこの三つを握ってきたわけだが、最近はそれに中国が挑戦を始めたわけで、米中の対立はこの辺りに遠因がある。現在、目立って報道される米中対立は情報産業に関するものばかりだが、エネルギー分野もまだまだ目が離せない。そして、そこに日本の技術がどのように働くか注目される。
昨日英国では、日産がEV(電気自動車)生産を拡大する、と大々的に報道された。ジョンソン首相が日産の工場を訪問し、日産のロゴ入り作業着で会見したからには、英政府も日産もこの事業拡大に本気であることが伺える。投資の総額は10億ポンド、日本円で1540億円と言われる。EU離脱の影響で製造業が英国から撤退することを食い止めたい英政府には、心強い事業拡大計画だ。
日産は以前からEVに力を入れてきたので、今後ガソリン車を廃止してEVに切り替える計画の英国は良いパートナーになれると踏んだのであろう。しかし、このニュースを少し細かくみていくと、一つの懸念が出てきた。EVの命とも言えるバッテリーの新工場建設もこの計画の一部なのだが、そのバッテリー製造の日産のパートナーが中国資本だというのだ。
そのパートナーはEnvision AESCという会社である。いつの間に中国がこのような技術を開発したのかと驚いたのだが、実はAESCという日本企業を中国企業のEnvisionグループが買収したのである。AESCは2007年に日産とNECが共同で設立した会社で、EV向けリチウムイオン電池製造のパイオニアである。この企業が中国資本に買収されたのである。これは由々しき事態である。EVの技術はそのまま軍事技術に転用可能だからである。
一体、当時の日産首脳や経産省は何を考えていたのか。しかし、買収のあった2018年4月当時、日産はカルロス・ゴーンの支配下にあった。これで辻褄があった。ゴーンが日産のEV電池技術を中国に売ったのだ。同年の11月にゴーンが逮捕されたのは、偶然ではないだろう。ゴーン逮捕の騒動の中、藤井厳喜氏が「ゴーンは日産のEV技術を中国に売ろうとして米国の逆鱗に触れた」という趣旨のことを述べられていたのが思い出される。
今回の日産の英国事業拡大が脱中国のための第一歩であれば大いに歓迎するところではあるが、果たしてどうなるか。今後、電池はエネルギーの容器としての重要性を増していく。つまり、「電池を制するものはエネルギーを制す」ということになろう。ビジネスマンにも「悪の論理」が必要なのだ。
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